徒然草 第１２２段
人の才能は、書物によく通じていて、聖人の教えを知っているのを第一とする。次には
文字を上手に書くことで、専門とするほどではなくても、一通りは、これは習っておくほう
がいい。これは、学問をするにも都合がいいようにとのためだ。
次に医術を習うがいい。自ら養生をし、あるいは人を助け、あるいは忠孝をつとめるに
も、医術を心得ていなくては十分に行うこともできない。
次に弓を射ること、馬に乗る事、これは漢土の六芸にも出ている。だから、これらの道
は一通りは修めるよう心掛けなければならない。結局、文・武・医の道は、どうしても欠
けてはよくない。これらの道を学ぶ人に対して、無駄なことをする奴だなどと思ってはな
らない。
次に食は、天が草木を養うように、養ってくれるものだ。味を上手に調理する事を知っ
ている人は、大きな利益と考えていい。
次に細工、これは万事に用途が多い。
これ以外にもいろいろあるだろうが、多能は君子の恥じることだ。詩歌も上手で音楽に
巧みなのは、まったく高尚な道で、君臣融和の術としてこれを大切にするとはいっても、
現代では、これを用いて世を治めることなど、しだいに効果がなくなってきたようだ。
黄金はすぐれていても、利益の多い鉄にはとても及ばないのと同じことだ。
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